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接木カセット®︎ 開発奮闘記



インタビュー記事:森 毅 研究員

農学部・修士課程終了後、ガス会社にて研究員として勤務

その後、名古屋大学野田口研究室に参画し、グランドグリーン株式会社に入社



Q.森さんがグランドグリーンに関わったきっかけを教えてください


 私は大学院生だった頃、グランドグリーンの創業者である野田口さんと知り合いました。当時からベンチャー企業を立ち上げるというお話を伺っており、お誘いも頂きましたが、その時はすでに他の企業に内定を頂いていたこともあり、お断りさせて頂きました。就職後も連絡を取る中で、一緒に働かないかと再度お誘い頂き、自分もやはり農業に関わる仕事がしたいという思いがありましたので、一緒に働かせて頂くことになりました。



Q.グランドグリーンの設立前は、野田口研究室でどのような業務に携わっていたのでしょうか。


 私は接木による野菜苗生産のノウハウ不要化、生産効率化をするための部材開発を行っておりました。接木は美味しい実がなる穂木と病気に強い台木を組み合わせることで、美味しくて病気に強い苗を作る技術です。農業現場でも果樹、トマトやピーマンなどのナス科、きゅうりなどのウリ科で広く普及していますが、そのほとんどは手作業による職人技で生産されており、需要に対して供給が追いついておりません。これまでにも接木装置は開発されていますが、接木装置に適した苗の育成が難しく、現場で十分には活用されていませんでした。


 野田口研究室では、物質輸送に関する研究を実験植物であるシロイヌナズナ(ぺんぺん草の仲間)の幼苗接木により行っていました。従来、幼苗接木は1 mm以下の茎を顕微鏡下で繋ぎ合わせる作業のため、非常に高度な技術を要し、限られた研究者しか行えない実験でしたが、接木チップ®️ (*1) を利用することで、素人でも簡単に接木ができるようになっていました。私はこの接木チップ®️ を基に今度は野菜苗の接木に利用できるようにするため研究開発に取り組んでおりました。



Q.野田口研究室での研究開発で接木チップに出会ったということですね。接木チップから接木カセット®︎ (*2 )に研究の着眼点がうつったきっかけは何でしょうか。


 接木チップの実用化に向けて苗業者様が実際にどのように苗が生産しているのか、また接木チップが現場で利用される為に必要な課題を調査しました。そこで複数の課題が見えてきました。種子代が高く、苗を無駄にできないため、接木成功率を最低でも90%以上にしなくてはならない。植物は同じ環境でも生育に差が生じるため、同じ製品で許容範囲を広くして、植物の成長のばらつきを許容する構造が必要である。接木の能力を発揮する為には台木の長さが最低でも3 cmは必要であり、台木の長さを維持する必要がある。


 これまでの接木チップ(研究用)はチップ上に播種し、その後の育苗、接木までを同一のチップ上で実施する仕様でした。しかし、発芽しなかった場所に別の苗を入れたり、台木の長さを確保しようとすると苗が徒長したりしました。そこで、チップ上での育苗を諦め、苗は従来通りトレーで育苗して、発芽した優良な苗のみを選別して利用できる仕様に変更しました。これが接木チップから接木カセットと呼ぶような形状になった一番の理由です。その後も太さのばらつきを許容しつつ、茎を傷つけずに固定する方法や固定部位の形状、緩衝材の選定には苦労しました。3Dプリンターでの試作を繰り返し、ようやく当初の目標を達成したものが現在の接木カセットです。



Q.接木カセットの研究を進めていくうえで、いくつか苦労した点があったかと思いますが、一番苦労した点を教えてください。


 一番苦労した点は量産方法を確立することです。一般的に樹脂製品を量産する際には金型を作り、金型に樹脂を流し込み成型することで安く製造できます。そこで、製造業者様に試作品を持ち込み量産について相談した所、そのままの構造では製造できないと言われてしましました。金型は金属の塊を削って作るため、曲線など一部の構造に制約があります。その制約に引っ掛かったのが接木カセットで一番重要な茎を固定する部分でした。結果、設計は1からやり直しとなり製造業者様にアドバイスを頂きながら接木カセットの設計及び緩衝材の再検討し、量産できる接木カセットを作ることができました。



Q.接木カセットの特徴を教えてください。


 接木カセットには3つの特徴があります。1つ目は、茎の太さのばらつきを許容しながらもしっかりと固定するため、茎の固定には専用の緩衝材を利用しています。2つ目は、これまでのチューブや接木ロボットと異なり、接合時の細かな調整がなくても高い接木成功率を達成するために、台木と穂木は別々に茎を固定しています。3つ目は、磁石により養生中常に台木と穂木の接合面が押しつけることで切断面が水平でもしっかりと活着するため、台木と穂木の接合面へ圧力をかけることです。このような特徴により、誰でも簡単に安定した品質の苗を生産できる接木カセットを開発することができました。



Q.接木カセットを導入するメリットを教えてください。


 また、接木カセットには4つのメリットがあると考えております。1つ目は、素人でも1時間あたり250本の接木苗生産が可能であること、2つ目は、穂木・台木の茎幅が異なっても接木苗生産が可能であること、3つ目は接木苗の品質が安定すること、4つ目は小規模からでも導入可能であることです。



Q.接木カセットの事業における今後の展望を教えてください。


 接木苗の需要は、土壌病害への耐病性を付与するためだけでなく、施設園芸の普及により樹勢維持目的などでも増えていますが、供給量はそれほど増加しておりません。私は接木カセットの普及によって、苗業者様において接木苗の生産効率化を進めていただけたらと考えております。また、農家様でも手軽に接木苗を生産できるようにすることで、農家様ごとに異なる環境に適した苗を生産できるようにしていきたいと考えております。

 また、近年、海外でも接木苗は注目されていますが、接木作業の難易度の高さから爆発的な普及には至っておりません。その点、接木カセットは誰でも安定して接木苗が生産できるようになるため、海外での接木苗の普及も視野に事業展開していく予定です。 



*1「接木チップ」はグランドグリーン株式会社の登録商標です。

*2「接木カセット」はグランドグリーン株式会社の登録商標です。

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